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【2024/04/25 10:06 】 |
ねこみみ
4
妹「タリスマンが描けたにゃあ」
 A4のコピー用紙に、油性ペンでチロチロ描かれたタリスマンとやら。
 本当にこんなので悪魔を呼べるのだろうか。
 …というか、いまだに赤魔術とやらを信じることができない。 
兄「そのにょろにょろした文字とか絵で何がかいてあんだ?」
妹「デーモン様きてください私は清い心を持った人間です。どうかおねがいします。お願いします」
妹「…みたいにゃ事が延々切々と描かれているにゃ」
兄「ふーん」
兄「清い心ねぇ」
兄「なるほどなるほど」
妹「にゃにが言いたいのか、なんとにゃく分かるにゃ」
妹「いちいち嫌味ったらしいお兄ちゃんは、清い心で許してあげるにゃ」
妹「でも、デーモンは悪い人の元にはあらわれないんだにゃ」
兄「…妹は、そのデーモンとやらに会ったことはあるのか?」
妹「一応初級術士の資格もってるのにゃから」
妹「デーモンさんと会って、簡単なお願いを聞いてもらわないと、初級術士にはなれないのにゃ」
兄「そっか…」
妹「えっへん」
兄「…どうも、すごいのかすごくないのか分からんな」
妹「そうなのにゃ?」
兄「…本当のところ、まだ信じられないんだ」
兄「赤魔術なんて、やっぱり詐欺商法で」
兄「デーモンやデビルなんて存在しないんじゃないか」
兄「ネコミミも、本当は良く出来た作り物なんじゃないかって」
兄「…やっぱり、よくできた夢なんじゃないかって」
兄「どうしても、思っちゃうんだ」
妹「心配しなくても、すぐに赤魔術が存在する証拠を見せてあげるにゃ」
兄「…なぁ」
妹「なんにゃ?」
兄「なんで、赤魔術を習おうと思ったんだ?」
妹「…ふぇっ!?」
妹「え、えーっと…」
兄「…?」
妹「うー……」
妹「あー……」
妹「……」
 気まずい空気だ。
 どうやら俺は、答えにくい質問をしてしまったらしい。
 …でも、こんな、誰もが疑問に思うような質問に答えられないのは、おかしい。
 昨日妹が使ったっていう魔術も、詳しくは話してこなかった。
 妹が何かを隠したがっているのは、間違いなさそうだ。
 …が、どうしたものか。

 謝る or 聞き出す

兄「ごめん」
妹「…え?」
兄「答えにくい事聞いちゃったな」
兄「どうしても、心配でさ…」
兄「妹も、もう子供じゃないのに…自分の事ぐらい自分で決めれるのに放って置けなくて」
兄「悪い癖だからさ…そろそろ妹離れしないとだめだな、俺」
妹「そんなことっ!」
妹「お兄ちゃんに心配してもらえるのが、嫌なわけないにゃ」
妹「心配させるような、私がだめにゃんよ…」
 ポロリ。
 妹の瞳から涙がこぼれた。
妹「わたし、だめだめ妹…」
兄「そんなこと無い」
兄「こんなこと言われて嫌かも知れないけど…」
兄「妹は、俺にとっては、最高の妹だよ」
妹「お兄ちゃん…」
妹「…へへっ」
妹「そんなことさらっといっちゃって…」
兄「駄目だったかな?」
妹「ずるいにゃ…」
兄「ごめん」
妹「うぅん…いいにゃ」
 そう言って涙を指で軽く撫でた妹は、ニコッと笑顔を俺に向けてくれた。
 きっと、無理してる。
 でも、きれいな笑顔だな、と思う。
妹「…ねぇ、ひとつお願いしてもいい?」
兄「デーモンでも聞いてくれないお願いかな」
妹「にゃぅ…いじわる」
兄「はは、冗談だよ」
妹「…うぅん、やっぱり、お兄ちゃんじゃなきゃ駄目にゃ」
妹「…ねぇ」
妹「ぎゅっ、ってして欲しい」
 言い終わると、妹は真っ赤になってうつむいた。
 こういうところ、すごく可愛いと思う。
 それに、こうやって甘えてきてくれるのが、すごくうれしい。

 いいよ or 条件がある

兄「いいよ」
兄「こっちおいでよ」
妹「…うんっ!」
 ぎゅっ…
 妹の体温を全身に感じる。
 これくらい、平気だって思ってた。
 妹と触れ合うなんて、それこそ妹が生まれたときから、よくあった事だったから。
 …でも、こんなにドキドキして
 こんなにも胸が痛くなるなんて、全然予想してなかった。
 さっき妹の肩を掴んだ時だって、こんなにもドキドキしなかった。
妹「あっ…」
兄「えっ…駄目だった?」
妹「う、ううん…」
妹「ちょっと、驚いちゃって…」
兄「あのさ…」
兄「…いろんな事さ、話したくなったら話してくれていいし」
兄「無理に話さなくていいよ」
兄「俺、見守ってるだけでも十分だし」
妹「…ありがと」
 そういうと、妹は目を閉じて、頭を俺の胸に預けた。
 それまで固まっていた妹の身体が、スッと緩んでいくのが分かる。
 それが、ちょっとうれしい。
 なんだか、うれしさの行き場が無くて、思わずネコミミのはえた頭を撫でる。
妹「にゃっ…」
 ひと撫で毎に願い事をするように、ゆっくりと撫でた。
 妹の髪の毛の匂いが、撫でるたびに俺の鼻腔まで運ばれてくる。
 あのシャンプーの匂いだ、って、家族だから分かるけれど、ひと嗅ぎする毎にドキドキが増える。
 この時間が永遠に続かないかな、なんてべたな言葉が頭に浮かんだけれど、カットの声は意外と早くかかった。
妹「はずかしいぃ…」
兄「あ、ごめん」
 妹の言葉がスイッチとなって、つい身体をグイッと引き離してしまった。
妹「あっ…」
 顔を真っ赤にしてる妹。
 こういう時だけ、すごくしおらしい。
 それが、可愛い。
 もう一度、すぐにでも抱きしめたい。
 でも、口実がない。

 我慢する or 告白する

 勢いでこのまま、もう一度抱きしめてしまいたい。
 でも、心のどこかで鳴っている警鐘が、俺を引き止める。
 勢いで非日常的な距離感に飛び込むのはよくない。
 妹が大事だから、もうちょっと冷静になりたい。
兄「どうだった?」
兄「こんなんでよかったのかい?」
妹「うん…」
妹「勇気…もらった」
妹「ありがと…」
 …勇気。
 妹は今、勇気が必要な状況なのか?
妹「じゃあ…はじめようかにゃ」
兄「お、おう…」
 妹は部屋のカーテンを閉め始めた。
兄「どうして閉める必要があるんだ?」
妹「デーモンは、太陽の光を嫌うんだにゃ」
兄「へぇー」
妹「じゃあ、蛍光灯を消すにゃ」
兄「う、うん…」
 カチリ。
 電気が消える。
 カーテンが遮光性になっているので、部屋は暗闇になった。
 妹の存在が、輪郭すら見えない。
 …たしか、写真部の部室にあった暗室が、これくらいの暗さだった。
兄「…部屋を改造したな?」
妹「てへへ」
兄「カーテンを閉めるだけで、完全に暗闇の空間にするなんて」
兄「すごい情熱だな」
妹「…じゃあ、はじめるにゃ」
 俺の質問には答えないで、さっそくモゾモゾ動き出した。
 シュル。
 高い音が暗闇に響く。
 シュ…シュルシュル…。
 普段は意識しないけれど、よく聞く音だ。
兄「えっ…もしかして…」
兄「今、服脱いでるのか!?」
妹「へへへ…」
妹「ばれたかにゃ」
兄「なんでっ!?」
妹「デーモンを呼ぶ時は、絶対に生まれた時の姿じゃなきゃ駄目なのにゃ」
妹「じゃないとデーモンはやってこないにゃ」
 勇気って…この事か?
兄「そ、それを早く言えっ!」
兄「お、俺…部屋からでるっ!」
妹「まって!」
妹「ごめん…嫌かもしれないけど」
妹「そこにいて…」
兄「……」
兄「…わかった」
 下心からじゃない保障はないけれど、妹が切実な声を出していたから、留まった。
 俺はただ、見守るだけにしよう。
 さっき、妹にそう言ったばかりじゃないか。
 …衣擦れの高い音が鳴り止んで、いくらかの時間が経った後、
 妹が小声でモゴモゴと何かをしゃべり出した。
 よく聞き取れない。
 おそらく、デーモン召還の呪文なのだろう。
 二分ほどしてから、詠唱は同じフレーズの繰り返しになった。
妹「ツーイスンュキドウュジアリ」
妹「ツーイスンュキドウュジアリ……」
 妹がこのフレーズを50は繰り返したと思った頃、急に俺の身体に変化が訪れた。
 目を回した時の、気持ち悪い感覚が俺を襲った。
 ただ、不思議と身体はふらつかない。
 妹に大丈夫か、と声をかけたかったが、詠唱の邪魔はできないと思いとどめた。
妹「ツーイスンュキドウュジアリ」
妹「ツーイスンュキドウュジアリ」
妹「ツーイスンュキ……」
妹「ツー……」
妹「……」
妹「……」
 ……。
 …。
 気付けば、何も聞こえなくなっていた。

 妹を呼ぶ or 妹を待つ

兄「妹ぉおぉおおっ!!」
 …。
 ……。
 返事が無い。
兄「どうしたんだ、妹っ!!」
 やはり返事はなかった。
兄「妹ぉぉおおおっ!」
 妹の元に駆け寄ろうとする。
 しかし、意識だけが駆けていて、身体が駆けている感触がしない。
 …というか、全身の触覚が全く無い。
兄「どう…なってんだ…?」
 間違いない。
 ここは現実には無い異空間だ。
兄「妹っ!平気なのか!?」
兄「頼む、頼むから、返事をしてくれっ!」
 声はむなしく暗闇に消える。
 焦りが胸から熱いものをこみ上げさせる。
 かつて無い不安が俺を襲った。
 異常な不安なせいで、思い出さなくていいことも思い出す。

妹「術に失敗したり、術を悪い事につかったら、悪いことが起きるっていうのは書かれてるんだけど…」

兄「もしかして失敗したのか!?」
兄「こんなわけの分からない現象が起きるくらい、リスクが高いのか!?」
兄「勇気って…本当はこのリスクと戦うことだったのか!?」
兄「妹ぉぉっ!!」
兄「こたえてくれぇえええっ!」
 こんな事になるくらいだったら、やめさせた。
 後悔と不安とが混ざって、感情がグチャグチャになる。
 触覚が無いので涙が流れているかは分からないが、心は泣いていた。
 「…お兄ちゃん」
兄「妹っ!」
兄「どこだっ、どこにいるっ!?」
兄「無事なのか!?」
 「…だめっにげてっ」
兄「にげて…って、できるわけないだろ!」
兄「どこにいるんだっ!」
 …。
 ……。
 …返事が返ってこない。
 刹那の安堵が、逆に不安を高め、俺の焦りは一気に加速した。
兄「いもうとぉぉおおおおおぉぉぉお!!」
 …。
 ……。
 「おにい、ちゃん」
兄「妹!?」
 「こっちに、きて」

 行く or 行かない

兄「こっち?」
兄「こっちって!?」
 「こっち、だよ」
 正面から聞こえた気がした。
 感覚のない脚を動かして、意識を正面に向けた。
妹「ばぁっ!」
兄「うぉっ!?」
妹「あはははははははっ!」
兄「な、ななっ!?」
兄「…もしかして、冗談だったのか!?」
妹「あはっ、あははははっ」
兄「わ、悪い冗談だっ、しんぱいっしたんだぞ…っ!」
兄「本気で……本気で心配…」
妹「あはっあはは…ひひひいいひっ」
兄「本気で…」
妹「ぷふふふふっふうっううっ」
兄「……何だよこれ」
兄「どうしたんだよ!?」
兄「なぁ!?」
兄「妹っ!!」
妹「ぷふーーっ」
兄「…っ!」
妹「ふふっ…残念。妹じゃないよ」
兄「は…?」
妹「こんにちは。ネコミミです」
兄「ネコミミ……?」
兄「何言ってんだ…意味分かんな…」
妹「分かってるでしょ?」
妹「私はネコミミ」
妹「さっき、妹のスピリッツを完全に乗っ取ってやったわ」

 信じない or 信じる

兄「嘘だっ!!!!」
兄「妹…悪い冗談はよせ」
兄「夕飯作ってやるから…お前の好きなパスタにしよう」
兄「…だから、もうこんなの、やめよう!」
妹「ぷふっふふふふ」
妹「ふふふふっ」
妹「本当に楽しいねぇ」
兄「…」
兄「俺は、妹を信じてるんだ」
妹「…じゃあ勝手にしなよ」
 …怒りがこみ上げてくる。
 信じているはずの存在に、苛立っている。
兄「糞ッ!」
妹「ふふははっ」
妹「見てて楽しいから、ちょっと解説してあげる」
兄「……やめろ」
妹「私はね、デビルの眷属なのさ」
妹「妹が力を貸して欲しいっていうから、貸してあげた」
妹「その代償として、スピリットをいただいたのさ」
兄「…スピリット」
妹「魂さね」
兄「…っ!?」
妹「あんたも、今はスピリットだけの存在」
妹「身体の感覚がないだろ?」
兄「力を貸して欲しいって…妹は幸せを願って、赤魔術をつかったんじゃなかったのか!?」
妹「ふはっははっ」
妹「おめでたいね、ほんと」
兄「…なんだと」
妹「…いいよ」
妹「もっと絶望してほしいからね、教えてあげるよ」
妹「あいつが昨晩行った儀式で願ったのは…」
妹「お兄ちゃんと相思相愛になる」
兄「…っ!?」
 妹が…俺を…?
妹「わらっちゃうよね」
妹「そんな卑しい願い事で、デーモンが来るはず無いのに」
妹「デーモンのふりして願い聞いてやったら」
妹「そりゃもう喜んだのなんの」
妹「ぷふっ」
妹「ふふふふふっ!」
兄「違う!」
兄「…卑しい願いなもんか」
兄「人と想いを一つにしたいと願うことの、何処が卑しいんだ!」
妹「あら…」
妹「お兄さんまで自覚が無いんだねぇ」
兄「自覚…?」
妹「ほんっっっとに、面白い兄妹だよ。あんたらは」
妹「…でも、自分達が兄妹っていう自覚…あんの?」
兄「…っ!?」
妹「デビルはねぇ」
妹「兄妹が大好きなんだよ」
兄「……?」
妹「それが、デーモンの奴らときたら、弟姉好きでいやがる…」
妹「あーーっ、もう姉とかあり得ないだろ常識的に考えて!」

 …え? or 姉弟最高だろが

兄「……え?」
妹「お兄ちゃんの良さが分からないとか、意味わかんない!」
妹「弟のいいところとかもうさっぱり!一生年下でいいわけ!?」
妹「年下の男といちゃいちゃ出来るかっつーの!」
妹「やっぱ大人なお兄ちゃんに甘えてしかるべきっしょー!!」
兄「…うー」
妹「ふぅ…ふぅ…」
兄「えっと…」
妹「…どう?」
妹「わかった?」
兄「…あなたの頭がおかしいって事は」
妹「…あ、そう」
兄「……。」
妹「じゃあ、もう行こうかな」
妹「なんか冷静になっちゃったみたいだし。…飽きた」
兄「…一つだけ聞かせてくれ」
兄「妹の願いは叶ったのか?」
妹「…はぁ?」
妹「叶ったから私が出てきたんだけど?」
兄「そうか…」
兄「わかった」
妹「…もう満足?」
兄「いや」
兄「あと、もう一つ」
  
 そういって俺は、妹に口付けをした。

妹「……っ!?」
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【2009/10/23 17:34 】 | 未選択 | 有り難いご意見(0) | トラックバック()
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